AIと人間で違う「わからない」の質 哲学研究者が考える対話とは | April 11, 2023, 5:30 a.m.
人間のような返答をする対話型のAI(人工知能)、「ChatGPT(チャットGPT)」の登場が世界に衝撃を与えている。高学歴・高収入の仕事ほど影響をうけるとの論文も。人間の知的な営みはAIに取って代わられるのか、科学技術に人間はのみ込まれてしまうのか。近代科学に直面した哲学者たちが科学と人間との関係を考えた、18世紀末から19世紀初頭の思想潮流「ロマン主義」が専門の哲学研究者、八幡さくらさんに聞いた。やはた・さくら 1986年生まれ。神戸大学大学院研究員。専門は哲学、美学(ドイツ観念論、ロマン主義)。教育活動として哲学対話ワークショップや、現場に足を運んで調査を進めるアクションリサーチにも取り組む。著書に「シェリング芸術哲学における構想力」。 ――人間のような回答をするとして、AI「チャットGPT」が話題です。「人間の生きる意味は?」など、哲学的な質問を投げかけても、それっぽい答えを返してくれます。 「私も、チャットGPTに『美とは何か』と質問してみました。回答は、これまでの哲学や美学の議論を踏まえた『美の定義』をいくつか並べた上で、『人間生活にとって重要なものです』というものでした」――やはり、それっぽい答えですね。 「集めたデータの中から答えを出すので、チャットGPTをはじめとするAIは、これまでの議論をまとめるのは得意です。でも、『こんな意見があった』というだけでは、あなたの考える『美とは何か』の答えにはなりません」 ――論文などを書く場合に「先行研究」を調べることはできるけれど、その先がないということですか。 「先行研究の調査という面でも問題はあります。情報の偏りやまとめ方に問題がないか調べたり、出典や情報源について確認したりすることが必要です」 「それよりも重要なのは、そもそものところで、どうしてそれを問い、そのことを調べたのかという部分が欠落しているからです」「美の概念」も問い直される局面に生きているという八幡さくらさん。AIが人間に突きつけている問いは、「ロマン主義」の時代の問いとも共通しているといいます。後半で詳しく聞きます。 「AIも『わからない』と答えることもありますが、それはデータがないとか、矛盾するデータがあって決めきれないとか、そういうことでしょう。でも人間には、これとは質の違う『わからない』があります。それが、人間が問うということの理由でもあります」 ――どういうことでしょう。 「『哲学対話』という取り組…